前から気になっているやつがいる。そいつ―――というが―――はどうにもいわゆるクラスの人気者、というヤツで。まぁだから惹かれたんだろうけど、でもきっとがクラスでも全然目立たなくてみんなの仲に埋もれているようなヤツでも、俺は仲良くなれる自信がある!なんてバカなことを思ってしまうあたり、俺はきっともう末期なのかもしれない。



青春ってなんだっけ?


「それは恋でしょ」
「え〜〜そうなんかな。泉もやっぱそう思う?」
「恋だよ。十中八九。ただ相手が男ってトコロに救いようがないものを感じるけどね」
「あ!おまえ差別発言だぜそれって!」
「どこが。別にホモが悪いなんて俺は言ってないよ。ただきっと報われない恋だろうね、って言ったんだよ。おまえに」

なんとも形容しがたいこの想いを、悩んで悩んで悩みまくった挙句に打ち明けたのは同じクラブの泉。別に泉が一番仲がよかったってわけじゃなくて、他にこーゆう話が出来そうな人間って思いつかなかったから。だってさー、阿部と恋バナとか命がけの雰囲気あるし?栄口と花井は変なトコ常識人っていうか・・・男同士の恋愛に免疫がなさそうだし。三橋に話しても混乱させるだけだろうし。田島・・・は論外、だもんな。じゃ、消去法でいったら泉サマしかいなくなったってワケ。そして俺の人選は間違っていなかった!泉クンってば、なんだかんだ俺の話を最後までちゃんと聞いてくれるしアドバイスもくれるから。

「人気者なんだっけ、水谷の好きな・・・えっと?」
クンね。そう。俺には負けるけど、次点ぐらいの人気者ではあると思うんだ」
「ああ、俺間違ってたね。水谷って存在そのものが救いようがないんだった」
「・・・嘘だよ、嘘。人気者だよー嫉妬しちゃうくらいに」
「嫉妬?くんに?」
「違うー。に話しかけるヤツらみんなに」
「・・・・・・末期だね」
「・・・俺もそう思う・・・」

に対する想いを初めて自覚したときは、なんで惹かれたのかさっぱり皆目見当もつきませんって感じだったんだけど、いま思えばこの想いはやっぱ必然っていうか、あーゆうとこ好きだな、とか、そーゆうとこステキだなって思ったりもする。姉ちゃんが持ってるマンガに出てくるような容姿端麗・頭脳明晰・品行方正なんかじゃ決してないんだけど。顔も別に抜きん出て可愛いってわけでもないけど。

だけど、やっぱりなんか好きなんだよね。

「で?どうだったんだよ。誘ったんだろ、野球部に」

そうなんです。やっぱさ、男の心理としては?四六時中も離れていたくないってか、好きなやつのそばにいたいじゃん?(まぁこの発言をしたときの泉クンの視線の冷たいことといったら!)(でも俺、やっぱり間違ってないと思うんだよね〜)だからダメもと承知でアプローチしてみたんですけど。

ありったけの勇気を振り絞って呼び止めて、俺ってこんな純情少年だったっけ?とは思わずにはいられないほど顔を真っ赤にして、声が震えるのを必死で堪えて。そんで、やっと言えたのが。
『野球とか興味ねぇ?』
ナンパじゃあるまいし、もっとマシな誘い文句はなかったのかと思うけど、呼び止めたときに「なに、水谷?」なーんて名前を呼ばれちゃって。だってまさか俺の名前なんて憶えてもらえてるとは思わない!だから舞い上がってもそれはしょうがないことなんだ。(と後で自分に言い聞かせた)

「誘ったけど・・・ダメだった・・・」

しどろもどろになって『野球部』に誘った俺に、は残念そうに眉を寄せて笑うと言った。

「『俺、スポコンってダメなんだ。頑張ってるやつは好きだけど』・・・だって」

あーあ、と大きなため息をついて、机に突っ伏す。泉はそんな俺を見て、なにか考えてるみたいだったけど、ああもきっぱり断られてるんだから、きっと野球部に入ってくれることはないだろう。

「・・・頑張ってる『やつ』、ねぇ。それを水谷に言うあたり、大概そいつも喰えないな」
「え?どゆこと? 頑張ってるヤツが好きってことは俺も野球頑張れば望みあるってこと?・・・なワケ、ないよなぁ」
「水谷・・・お前ってさ、肝心なとこニブいのな」
「え?」

でもまぁね。高校生活、野球が全てではないのです。幸いなことにクラスが一緒なんだから、仲良くなれる可能性は俺の努力しだいでしょう。もちろん、野球も頑張るよ?ちょっとでも望みがあるなら、なんにでも賭けてみたいのです。好きになってもらえるように、ガンバロウじゃないか!

「・・・不純な動機で野球をやってるってことは、阿部には黙っといてやるよ」



・・・ええ、ぜひとも、そこのところはよろしくお願いします。



*postscript
拍手用に書いたのを加筆して修正しました

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