If...
3年ぶりに『瑠璃色の審判者』サマに再会した。
3年前のがどんなだったか、なんて。そんなハッキリとは憶えてはいないが。やけに目を惹く整った顔立ちと、不思議な魅力を持つ人間であったことは記憶の片隅にちらりと残っている。
ただ、そのころの彼はやはりどこか幼さ・・・ウブさ、とでもいうのだろうか。そんな純粋なものを体中にまとった雰囲気があり、曇りのない大鎌と、真っ白のケープがとても似合っていた。
だが今はどうだ。
俺は思わずその変わり様に驚き、本当に同一人物なのかと少し疑ったほどだ。
3年前には肩よりも長く、幼さを強調して見せていた瑠璃色の髪は短く切られ、濃く深い双眸、落ち着いて沈んだ雰囲気を醸し出していた。まるでこの3年間の間に何があったのかと思わず勘繰らせてしまうほどの変貌ぶりに、俺は思わず目を瞠った。
まぁ、それなりにお綺麗な顔をしてはいたが、所詮は男。
女性の魅力の前では霞んでみえる・・・と、当時は確かに思っていた、はずなのに。
3年前とは違う、この雰囲気・・・いや、オーラとでもいうのだろうか。艶めかしいというか・・・まぁ、一言で言うなら”色っぽい”。
短く切られた(とはいっても肩ぐらいまでではあるが)髪の艶は失われておらず、むしろ一層輝きを増したかのようにも見える。
その上、一見淀んだ沼を思わせるほどの濃さにまで沈んだ双眸なんて、よく見ると憂いを帯びて、深みのある・・・まるで吸い込まれるかのような綺麗な色。
アップルに聞いたら、あれは「紺瑠璃」という色らしい。
まさに、誰がつけたかその二つ名に相応しい様相をしたの真の魅力に気付いてしまえば、もう目を離すことなど出来はしないだろう。年は俺とそう変わらないはずなのに、所作のひとつひとつの、どれをとっても気品にあふれた物静かで優雅な動きは、そのことを忘れさせるほど美しかった。
3年という年月は、こうも人を変えるのかと。思わずにはいられない。
『瑠璃色の審判者』
俺が、その二つ名を持つ者の意味を知ったのは、先の戦いが全て終わった後。
悲しげに浮かべた微笑とともに旅立ったに、俺はちょっとした好奇心で親父に尋ねてみたのだ。「彼は何者なのか」と。
彼が現れた当初から、周りの人間たちの様子がどこかおかしくて(いま思うとそれはを裁くか否かという意味なので、当たり前の反応なのだけど)不思議には思ってはいたものの、聞いても教えてくれないだろうと解ってはいたし、大して興味もなかったのでそのままにしておいたのだ。
そして、の持つ紋章の重みを、知った。それに彼の深く沈んだ表情の意味も。
親が放任主義だった俺は、年頃の子供が興味を持つことに対してなかなか早熟の気があったのを自覚していた。だから、実は知っていたのだ。彼が、に惹かれているということを。そしてその気持ちが恋に近いものだということも。
だから。
審判者の使命をも理解した俺には、への紋章の重圧や皆の期待なんかのなにもかもが大変な負荷になっていたのだと、続けて理解した。
だから。だから彼は。
戦局が好転していくに連れ、暗く思い容貌をしていたのだと。やっと、理解した。
―――また、禁忌を犯した審判者がどうなることかも。
どうして彼が現れた時点で、『審判者』の使命を教えてくれなかったのかと、親父に文句も言ってはみたが。その理由がおしゃべりな自分の性格の所為だと解れば、憤りつつも諦めざるをえなかった。
いつのまにか、彼のことが気になって。
気付けば誰もがに惹かれている。も、も。―――あの生意気なガキ、ルックでさえも。
笑えることに、あのルックなんてすっかりご執心で。彼に近づく人間を皆、牽制して歩いているほどだ。
ついつい悪いクセで、ルックからを奪ってやったら、ルックはどんな顔をするのだろうか、などと思ったりもした。
それをしなかったのは、だ。
この間、城の窓からふと外を眺めたときに、を見かけたことにある。
3年経って、身体的にも精神的にも成長したが。
暗い眼をして、運命の重さに潰されてしまいそうだった、あのが。
ふわり、と微笑んだのを見かけてしまった。
あの顔は今でも忘れていない。忘れることが出来なくて、脳裡にしっかりと書き留めてある。
その微笑みを見ただけなら、きっと迷わず俺は彼を口説きにかかっただろう。
その視線の先にある、微笑みのもとに気付かないままであったなら。
は確かに微笑っていた。あいつ―――ルックを見ただけで。花が綻ぶかのようにやわらかく。
完全な片思いなど、何年ぶりのことだろうか。結果の見えた勝負などしない主義であるのだが。
このままのためとはいえ、ルック相手に引き下がってやるのは、癪に障るのだ。
手に入らないのは解ってる。
だが、もう少しこのまま。彼らの間に割りこむのも面白そうで。
――――まいったな、久しぶりに本気になりそうだ、と呟く。
乾いた唇を湿らせようと舌で少し舐めるが、舌すら乾いていて、そんな自分の身体の変化に苦笑いをひとつ、洩らした。
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* postscript
拍手用に書いたものを加筆して修正しました
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